a day

ハローでグッバイな

忘れられない青虫事件

買い物に行こうと自転車に乗ろうとしたら、前輪のちょうど真下に、大きめの蛾がいた。こんな蛾らしい蛾を見たのは久しぶりっていう、モスラみたいな蛾。自転車を後ろにすこしでも動かしたらつぶれてしまうし、こっちに飛び立つかもしれない。
ぎょえ!だ。わたしは飛ぶ虫がすごく苦手。
非常に情けないことだけど、その日は自転車に乗るのを諦めた。いいわ。わたし歩く。

次の日、蛾は死んでしまったのかお腹がつぶれ、たくさんのアリがたかっていた。蛾は分解されようとしていた。わたしの車輪の下でなんともいえない光景だったけど、すこしほっとした。いずれ無くなる。
次の次の日くらい。
アリと蛾のいた場所に黒いシミが残っていた。もう何もない、と思った。
ところが。そのすこし横を見ると、全く全く同じ種類の蛾が、綺麗な状態でこっち見てた。(かどうかは知らないけど)

え……。なにこれ。もとにもどってる!? え…蛾の双子?
ぎょえ!だ。なんとなく薄ら寒い。
まさか誰かわたしに恨みがあって蛾を定期的に置いていくといういやがらせを…?(笑)


いや、というのも、昔こんなことがあって。
うら若き学生時代、大阪で2階建ての小さなアパートにひとりぐらしをしていた。
ある日、自転車に乗ろうとしたら、自転車置き場全体に、何十匹もの青虫がぶちまけられていたのだ。生きてるやつ!
被害はわたしのだけじゃないのだけど、むろんわたしのサドルの上にもハンドルの上にも細い青虫がどっさりにょろにょろ。
ぎょええええ!!だ。
確か、連絡を受けた大家さんが、焼き殺すか何かしていた気がする。

その数日後、明け方に「きゃあああああ!」ととんでもない悲鳴が階下からした。
飛び起きて耳をすますが何も聞こえない。数分のち、消防車と救急車とパトカーが、いっせいにやってきた。
バタバタする大勢の足音。わたしの部屋の前で警察官が、トランシーバーか何かで連絡をとっている。
近所の人のやじうまもすごくて、ドラマみたい、だった。

後から聞いた話だけれど。不審な男が下の部屋に庭から侵入し、首を絞め、放火して逃げたのだそうだ。さいわい、住人に怪我はなく、ボヤ程度で済んだのだが。
怨恨なのか通り魔なのか詳しいことは知らないが、自転車の青虫もその男のいやがらせだったのかもしれない。


こうやって思い出すとかなりの事件なのだけど、当時のわたしは何の危機感もなく、親に連絡ひとつすることもなく、ひとつのネタとして友達に披露するくらいで、なんにも思わずそこに住み続けた。おそらく捕まったのだろうとは思うけど、確認もしていない。
何の根拠もないのに、自分はそういう被害に合わないと思っていた。若いしかなり世間知らずだった。
まだ起こっていないことに不安になるよりも、考えることが多すぎた。
その頃していたような海外旅行とか、今とてもできない。やっといてよかったけど。
夜道だってあの頃は平気で歩いてた。今のほうが危険は薄かろうにね…。
すこしは賢くなり、だいぶ弱くなった。